EURO2008〜ベルギー編〜

5:ブルージュ(Bruges/Brugge)

英語ではブルージュ、フランス語ではブリュージュ、フラマン語ではブルッヘ。
15世紀まではフランドルのウォール街的な場所で、
また運河を利用した港町として、金融や貿易の拠点として栄えました。
しかしアントワープが勢力をつけてくるとほぼ同時期に徐々に衰退し、
現在は静かな観光都市となっています。
衰退した時点で街は発展することをやめてしまったかのように、
当時の面影を今に残す、美しい中世の街となっています。

 

 

久しぶりに訪れたブルージュ駅は工事中でしたが、
ホームなど一部はかなりきれいに改装されていました。
有名な観光地ではありますが、駅は小ぢんまりしています。

 

駅前は比較的大きな車道なのですが、
こういう場所で時々みかけるのが、自転車専用信号。
日本のように自転車が歩道を走るということはなく、
車道の横に自転車専用道路が設けられています。
「自転車も車両」と教習所で教わったことを、
こんなところで改めて思い出しました。

 

駅前は高い建物は一切なく、がらんとしています。
見晴らしが良いので、街の中心にある教会が
こんな場所からしっかりと見えます。
まさにランドマーク。
あの近くにマルクト広場があるはずなので、
ここからあの教会を目指して歩いていきます。

 

街は全体的に静かです。
高い建物は教会以外はありません。
アパートのような建物もありますが、
どれもみな落ち着いた色彩で、とてもきれい。
人があまり歩いていませんが危険な感じはなく、
とにかく静かな田舎の街という雰囲気です。

 

さて目的の教会へ。
この教会、近くで撮ろうとすると高すぎるし、
遠くで撮ろうとすると前に建物がくるのです。
この写真で、高さを感じていただけるでしょうか。

 

ここで有名なのは、ミケランジェロのマリア像です。
祭壇の真正面に鎮座しています。
大理石でできており、それほど大きくないため、
マリアの表情まではよくわかりませんでしたが、
マリアにとてもふさわしい、真白な美しい石でした。

 

以前ブルージュに来た時、住人と思しきおじさんが声をかけてきました。
どこから来たんだ?ここは初めてか?あの教会に行ったか?
あそこにはね、ミケランジェロが彫ったマリア様がいるんだ。
英語でとても嬉しそうに、誇らしげに話してくれたのです。
このマリア像の美術品としての価値はともかく、
街の人にとても愛され、誇りにされているのはよくわかりました。
宗教的な象徴というよりも、もっと違う意味で
街の人はマリア像をとても大切に思っています。
その日は雨で、とても寒い日でしたが、
そのおじさんの笑顔や語り口で、心が温まったのを覚えています。

 

昨日のアントワープの教会に比べると豪華さには欠けますが、
教会の荘厳な印象は、まったく変わりません。
やはり宗教空間というのは、何か空気が違う感じがします。
それは西洋の教会だけでなく、日本の神社仏閣も、
空気の清涼さとともに、重さを感じます。
やはり日常生活とは別の空間だからでしょうか。

教会の片隅に、小さな懺悔の部屋がありました。
きっと現代でも悩んだ信者たちは、ここで罪を告白するのでしょうね。

 

ちょっと写真が暗めですが、壁がすべて絵画で覆われています。
全部宗教画ですが、いいですねえ。
宗教画はやはり教会にあってこそ、引き立つものです。

 

そこから歩いてすぐ、マルクト広場があります。
かわいらしい家々に囲まれた広場には、沢山の馬車ありました。
これは勿論観光用の馬車。
この景色をバックに馬車が並んでいるところは、とても絵になりますね。

 

このようにお客さんを乗せて走る馬車を、
街のあちこちで見ることができます。
時々馬の水飲み場もある。
気をつけて歩かないと、時々馬の糞が落ちていることがあります。
陽が差しているとはいえ、冬の寒い日。
馬の体から蒸気が立ち上っていました。

 

kの水飲み場は大きい。というよりも、使い方が違う。
馬の首の形をした出水口があるのですが、
この馬の前歯の部分にバケツをひっかけて、コックをひねります。
すると、馬の口から水が出てきて、バケツに貯まるという仕掛け。
このバケツ1杯に汲まれた水を、馬はごくごく飲んでいました。
やはり体が大きい分、必要となる水の量も多いようです。

 

マルクト広場のすぐ近くに、ブルージュのシンボルである鐘楼があります。
15世紀に完成されたという鐘楼には、本物のカリヨンもあるそうです。
昔は時を告げるのに、本物のカリヨンを弾いたりしたのでしょうが、
現在は特別なイベントの時くらいしか弾かれないのでしょう。
カリヨンは握りこぶしで鍵盤をたたくという、大変力のいる楽器。
生のカリヨンの音を聴いた事はないのですが、一度聴いてみたいものです。

 

ここは入場料を払って、上の展望台に上ることができます。
早速行ってみましょう。
なにしろ15世紀に造られた建物ですからね、バリアフリーなんかじゃありません。
このような螺旋状の階段を、366段上るのです。
当然ながらこの階段、コンクリートじゃないです。切り出した石なのですよ。
これを造る労力もすごいものですが、多くの人が踏みしめた跡がへこんでいます。
これだけでも、長い長い歴史を感じます。

 

展望台までの途中にある、機械式の大時計。
この巨大なものは、オルゴールなのです。
時間が来ると、この巨大な筒がゆっくりと回転して、
とても大きな、そして美しい音色を響かせます。
このオルゴールの奥に複雑な歯車がたくさんあって、
正確な時間を刻んでいるのです。

 

汗だくになりながら、366段を上りきりました。息をきらしただけあって、素晴らしい眺めです!
家屋の色は一色ではないながらも、同系色でまとまっているので、とてもきれい。
高い建物がないので、普通のお家がたくさん見えます。
ブルージュは運河の街なのですが、その運河も船も見ることができる。
前回来た時は雨だったのですが、今回は素晴らしい天気だったので、
360度の大パノラマを十分に楽しむことができました。

 

ベルギーはチョコレートの国ですが、
この小さな都市、ブルージュにも
多くのチョコレート屋さんがあります。
裏通りにひっそりと建つチョコレートハウスは、
チョコレートの博物館のようなもの。
チョコレート作りの実演があったりもするので、
うまく時間があえば、見ることができます。

 

中にはチョコレートやボンボンを作る時の道具や、
チョコレートを使って造られた精巧な人形や小物などが
各所に飾られています。
当然日本語の説明文などはありませんが、
まあ大体のことは見ればわかるようになっています。

 

チョコレートの職人さんによる、実演と説明。
カカオ豆も産地によって、まったく味が違ってくるのだそうで、
実際に少し食べさせていただきましたが、私にさえわかるくらい違う。
それをいかに美味しく加工していくかが腕の見せ所だそうで、
型を使った飾りチョコの作り方や、中にプラリネなどを入れたチョコの作り方など、
実演と試食で説明してくれます。説明は英語でした。

 

外に出て、運河のほとりをぶらぶらと歩いてみました。
本当にブルージュは絵になる光景が多く、
屋根のない美術館と言われるのも納得の眺めです。
運河クルーズは冬の間はお休みなのですが、
この日は暖かかったせいか、開催していました。
乗ってみたかったけど、とても沢山の人が待っていたので、
残念ですが断念しました。
でもね、橋の上からクルーズの船を眺めるのも、またいいものですよ。

 

運河のほとりをあてもなく歩いていると、ベギン会修道院の門がありました。
ベギン会とは12〜13世紀にフランドル地方で始まった女子修道会です。
当然キリスト教の修道院なのですが、従来の修道院とはやや異なっており、
建物の中に籠った生活ばかりではなかったようです。
外で働いて稼いだり、退会すれば結婚もOKだったとか。
現在ブルージュのこのベギン会修道院はベネディクト修道院として、
尼さんたちが静かに生活しています。

 

なんだか名曲アルバムのような光景でした。
きれいに刈られた芝生、赤い屋根のかわいらしい建物、
木立の中で羽を休める白鳥たち。
ここはブルージュの観光コースにもなっているので、
敷地の中は観光客でいっぱい。
でも修道院の中であるということから、大声で騒ぐ人もなく、
それなりの静寂は保たれているようでした。

 

敷地の片隅にある、ベギン会の尼僧たちの生活を再現した家。
入口はとても小さいのですが、中は意外に広かったです。
何気なくドアを開けると、本物のシスターがいてびっくり。
初老のシスターでしたが、とても品を感じさせるきれいな方でした。

 

台所とかシスターたちの寝室などがあります。
これが完全に当時の再現だとは思いませんが、
ベッドが天蓋付だったのには驚きました。
勿論レースなどではなく、質素な普通の布なのですが、
天蓋付ってごく普通のものなのでしょうか。
寝室は作業の間も兼ねており、ここで糸を紡いだりもしたそうです。

 

かわいらしい中庭。
ベギン会は外界との交流を禁じていなかったようですから、
本当に一人になって、神に祈ったりする時には、
このような静かな場所に来たのかもしれません。
受付にいたシスターが、ここに静かに佇む様子を想像すると、
絵になるなあ…と思いました。

 

一日かけてブルージュを散歩してみましたが、
さすが観光地になるだけあって、とても美しい街でした。
昔、貿易や造船、レースなどで栄えた街に衰退が始まった時、
当時の人々はどう感じたのでしょうか。
寂れていく街を見て、かつての隆盛を懐かしみ、
思いを馳せたに違いありません。

 

数世紀後の現在、ブルージュはベルギーでも指折りの美しい街として
多くの人が訪れています。
経済的な主導権は他の都市に移ってしまいましたが、
その代りにブルージュは、もう他の都市では手に入らない何かを
得たのではないでしょうか。
数百年前のフランドルが息づく、中世の街。
私が心に思い描いたままのヨーロッパの静かな地方都市は
今でもこうして存在しているのです。

 

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