EURO2008〜ベルギー編〜
3:マグリット博物館(Rene Magritte museum)
ルネ・マグリット。スペイン出身の天才画家サルバドール・ダリと並ぶ、 シュールレアリズムの巨匠です。 名前は知らなくても、左の絵をどこかでご覧になった方も多いのでは。 彼の絵はとても緻密に描かれていますが、題材が不思議なものが多く、 目の前の物を忠実に描く絵というものとは、かけ離れたものとなっています。 しかしその不思議な魅力に取りつかれた私は、彼の絵を見たいがために 数年前初めてベルギーの地を踏んだのでした。 「光の帝国」の実物を、ブリュッセルの王立美術館で初めて見た時の感動は、 今でも鮮明に思い出すことができます。 |
そんなマグリットが長い間住んでいた家が、博物館として公開されています。 昼過ぎにブリュッセルに到着した私は、ホテルに荷物を置いてすぐに、 そのマグリット博物館に行くために、街に飛び出したのでした。 何しろ、その日は日曜日。博物館は、月・火曜日がお休みなのです。 何が何でも、今日行かなければ! |
しかし、しばらくぶりにブリュッセルに来た私は、 悲しいほどに土地鑑がなくなっていました。 ちゃんと行きつける自信がない。道に迷って、時間切れになったらお終いだ。 そこで、目にとまった大きなホテルのフロントに、タクシーを呼んでほしい旨お願いしました。 外国では流しのタクシーというのはあまり存在せず、電話で呼ぶケースが多いからです。 するとドアマンは外へ行き、なんとホイッスルを吹き始めたではないですか! 電話で呼ぶと思っていた私は仰天。道行く他の人も、何事かという表情で見ていきます。 おいおいタクシーは犬かよ!と心の中で突っ込みをいれていたら、 本当にタクシーが1分もたたずに現れたのには、更にびっくり。 どうもこの近くにタクシーの待機場があって、聞こえたタクシーが応じてくるようなのです。 いや〜、びっくりしました。こんなこと、生まれて初めて。 |
タクシーのドライバーに地図を見せてお願いしました。 そのドライバーは知らない場所だったようなのですが、 信号待ちの間に地図を駆使したり、道行くおばさんに尋ねたりして、 なんとかすぐ近くまで行ってくれました。 と、文章で書くと簡単だけど、随分と地図を眺めていました。 運転手さん、ありがとうございました。 あなたに運転手のプロ根性を見ました。 |
この通りの途中に、マグリット博物館があります。 表通りにはこのような標識が出ていますので、 トラムなどで来た方は、これを頼りにするとよいでしょう。 この通りを歩いていくと、地味ではあるけれども、 マグリットのファンには何とも味わい深い看板が見えてきます。 |
これです。開館中は、歩道のすみっこに出ています。 このシルエットだけで、何も書いていなくてもマグリットですね。 これが見えてきた時は、本当に嬉しかった! |
これがマグリット博物館の外観です。 マグリットはここの1階に、24年間住んでいました。 この建物はアパートで、2〜4階には当然別の住人がいました。 現在は建物全部が博物館となっており、誰でも見学することができます。 この外観はマグリット博物館の公式サイトの表紙にも使われていますが、 その表紙の写真を見て「あっ!」と気付く方も多いでしょう。 マグリットの代表作とも言える、「光の帝国」です。 男性のシルエットの看板といい、博物館の演出もなかなかのものです。 |
玄関脇の小さなベルを押すと、中の人が出てきて対応して下さいます。 来館者には英語かフランス語、フラマン語での案内があります(言語は選べます)。 マグリットの絵葉書を使っての説明はわかりやすいだけでなく、 その絵が描かれた当時の背景も知ることができて、とても興味深いものでした。 |
1階はマグリットが生活していたであろう状態になっており、 2階以降は博物館・美術館という造りになっています。 2階以上に上がる時には、階段下にある靴カバーを履いて。 撮影は自由ですが、フラッシュは禁止。 右のような、展示物の説明書き(日本語)も用意されています。 入館料金は2008年2月現在で一人7ユーロ。 開館時間等詳細情報は、必ず行かれる前に公式サイトで確認を。 |
では中を見て行きましょう。 玄関に入ると、この階段が2階に伸びた廊下です。 この1階全部が、マグリット夫妻の住居でした。 どうもアパートと言うと、日本式の小さなアパートを思い浮かべますが、 各階3LDKくらいにあたる広いものです。 この廊下の左側に、部屋がいくつか並んでいます。 |
当時は壁で見えなくなっていた部分も、 現在はガラス張りにして見えるようになっています。 一番玄関に近いリビングが左の写真。 右はその隣にある寝室です。 これらを見て、思い浮かぶ絵がありますね。 |
←そう、これですね。マグリット作品の中でも1、2を争う有名な作品、 「突き刺された持続」です。 マントルピースの中から蒸気機関車が出てくるこの作品については、 マグリット自身が明確な説明を避けているということもあり、 作品のテーマを確定することは難しい。 でもそんな難しい事は私にはどうでもよくって、 とにかくこのマントルピースが見られたということだけでも、 本当に感動したのでした。 また、右の絵もこの寝室を思い起こさせるものです。 マグリットは部屋の壁を、好んで青く塗ったそうです。 この絵では壁は青一色だけではなく、空と雲が描かれています。 |
このリビングの窓からの景色を描いたのがこの2作品です。 左の絵では、のどかな田園風景が描かれていますが、 これはマグリット自身がこの家に住んでいた頃の、 実際の風景だったそうです。 現在は所狭しと家が建ち並んでおり、すっかり街中ですが、 昔はブリュッセルの端あたりは、こんな感じだったのでしょう。 右の絵に見られる景色は、マグリットのイメージしたもので、 実際の光景とは異なるものです。 |
アパートの1階には、中庭もありました。 その庭の片隅にアトリエがあります。 大きな作品などは、このアトリエで取り組んだとのことですが、 実際にはマグリット自身はあまりこのアトリエで仕事をすることを 好まなかったと聞きます。 右の写真は、アトリエの位置からアパートを眺めたところです。 結構大きな建物です。 |
台所から中庭に出る途中に、大きな鳥籠があります。 実際にマグリットはここに鳥籠を設置し、鳥を飼っていました。 人間の背丈よりも大きなもので、オウムのような大きめの鳥も飼えそう。 そうそう、鳥かごと言えば… |
これですね、「臨床医」。 「臨床医」には「光の帝国」と同様数パターンあります。 中が鳥籠ではなく、空と雲になっているものもあります。 |
廊下の片隅に、山高帽やこうもり傘、杖など マグリットを彷彿とさせるオブジェが飾られていました。 実際の彼も山高帽と黒いコートの写真が残っていますし、 やはり身近なもので、気になるものだったのでしょうか。 |
台所の隣にある、アトリエを兼ねた部屋。 ここは他の美術家たちが訪ねてきた時のサロンの役割が多く、 実際にマグリットが好んで絵を描いたのは、 この向こうに見える、光さす明るいキッチンでした。 |
マグリット11歳頃の作品。 とてもその年齢の子供が描いたとは思えない出来映えです。 絵のテーマや題材はともかく、マグリットは技術的にも優れており、 基礎はしっかりと出来ていた上でのあの絵だということが、 この作品からもわかります。 |
2階以降は、まさに博物館という感じ。 マグリットに関連するものが、たくさん納めてあります。 説明文を読みながらまわると、とても充実です。 |
マグリットは古い画家ではないので、 写真もそれなりに残っています。 これは絵を描く若きマグリット。 これは写真というよりは、右の作品で有名ですね。 |
マグリットと言えば山高帽、こうもり傘、鍵など色々ありますが、 もう一つ大事なアイテムと言えば、やはりパイプでしょう。 ちょっと写真が暗いけれど、パイプもいくつか置かれていました。 |
「これはパイプではない」とわざわざ書かれた左の作品。 ただ単にパイプを1本描いただけでは、 ここまで有名な作品にはならなかったかもしれません。 題名は「イメージの裏切り」。 我々が持っている常識やイメージは、 全て虚構のものかもしれないということなのでしょうか。 |
これは絨毯です。一つの部屋に敷かれています。 この絨毯は、マグリットの夫人が作成したものだそうです。 4畳半くらいの大きさで(自分に強烈に日本人を感じる言い方だ)、 マグリットの例のサインも忠実に。 |
そして、ここでしか見ることのできない作品もたくさんあります。 右の2つは、いかにもマグリットらしい作品だと思いますが、 左の1枚はミサイルと臓物という、少々グロさを感じる作品です。 しかし、あまり生々しさを感じないのです、彼の作品は。 |
若き日のマグリット夫妻。 マグリット自身もかなり男前なのですが、奥様もとても美しい方です。 穏やかなこの写真からは、とてもあのような絵を描く人には見えませんが、 実際のマグリットはダリのように奇抜なパフォーマンスもそれほどなく、 ごくごく普通の生活を送っていたようです。 コラージュのような作品群は、とても不思議なものですが、 やはりベルギーの画家であるジェームズ・アンソールの絵と違って、 見ている私たちに不安めいた感情を与えることはありません。 それが長年の間とても不思議でした。 この博物館に来て気づいたのは、マグリットは描くものは奇妙でも、 時に芸術家特有の、エロスや死の脅迫観念に脅かされることはあっても、 彼自身は非常に精神的に安定しており、安らいだ生活だったということです。 作品が売れなくて金銭的に悩むことはあっても、心の安らぎは保てていた。 それが彼の作品に、現れているのではないでしょうか。 絵には感情が宿ります。 たとえばゴッホの晩年の絵などは、見ているだけでつらくて胸が苦しくなりますが、 マグリットの絵には、そういう要素がない。 私がマグリットの絵から感じる何かというのは、卓越した感覚だけでなく、 世の普通人の感覚も同時に併せ持った、類まれな天賦の才能なのかもしれません。 |
ベルギーは現在ユーロ圏内ですので、貨幣もユーロが使われています。 私が以前訪れた時は、まだBF(ベルギーフラン)でした。 500BFの紙幣に描かれているのは、若き日のマグリット。 猛禽類に見える雪山の頂や葉っぱの樹木、直立して宙を舞う紳士たちなど、 彼の作品のモチーフがたくさん散りばめられています。 私が今まで数回ベルギーを訪れて手にした数々のお土産の中で、 このマグリットの紙幣は特別なもの。 今回の博物館の訪問の思い出と共に、大切にしようと思います。 |
この博物館への行き方ですが…。 グラン・プラスから徒歩で行ける距離ではありません。 トラムでも行くことができますが、行きはタクシーをお勧めします。 でも「マグリットミュージアム」だけだと絶対にわからないので、 公式サイトの地図と住所を印刷していくとよいでしょう。 グラン・プラス近くからだと、大体15ユーロくらいで済むはずです。 トラムは停留所の名前が分かりづらい(車内放送なし)。 どこの街でもそうですが、中心地に帰る時は楽ですが、 そこから離れていく場合は、わかりにくくなるものです。 帰りはトラムにしましたが、運転はかなり荒いので注意しましょう。 トラムでの行き方は、このページが詳しいですよ。 |
ルネ・マグリット博物館(Rene Magritte museum)英語とフランス語とフラマン語 ルネ・マグリット財団(foundation Magritte)英語とフランス語 |
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