2009年フランス旅行記

〜フランス雑記・フランスグルメ〜

1:マルセイユのブイヤベース・ミラマール

 

まずこのレポートを書くにあたって、私の味覚について説明しなければなりません。
皆さんがまずい!とおっしゃるもので、私が大丈夫だったものって、かなりあるのです。
たとえば、これとか、これとかですね。
特にサルミアッキに対しては「おいしい」とまで言い切った私の味覚は、
おそらく普通の人と違うベクトルにあるように思うのです。
おかげさまで「これ、無理」と判断された奇妙なお菓子を食べるのは、職場では私の役目。
そんな私のレポートなのだということをわかったうえで、お読みくださいませ。

 

ブイヤベースと言えば、世界3大スープの一つですね。
フランスのマルセイユの名物なのです。
マルセイユに行ったら、ぜひとも食べてみたいもんだと思ってました。
ネットで色々と調べたら、どうも「MIRAMAR」というお店が有名らしい。
ブイヤベースと言えばミラマール、ミラマールと言えばブイヤベース。
ランチタイムの開店に合わせて、お店に入って行きました。
ランチタイムだからなのか、ドレスコードはなしでした。
*リンク先 音が出ます、注意!

 

ブイヤベースが食べたいと英語で伝えると、お品書きを見せてくれました。
なるほど、ブイヤベースは55ユーロ…それに+するものが、いくつか書かれていました。
ロブスターとか蟹とか、そういうものです。
で、注文方法がよくわからなかった私は、基本のブイヤベースにロブスターを足すことに。
ロブスターは100g15ユーロとあった。これを100か200g入れてもらえばいいだろう。
指さしと英語で、なんとか伝えました。
ブイヤベース用のお皿がまずきました。材料の絵が描かれています。

 

飲み物はと聞かれたので炭酸水と言ったら、コーラがでてきました。

そうこうしているうちに、先ほどのウェイターさんがやってきました。
手に、なにやら巨大な、ロブスターを持って。
「このロブスターになります。これは大体2kgなので、20×15ユーロです」
え、では100gだけとかの注文は出来ないってことですよね?
でも今更取り消しなんて言葉も十分に伝わってないのに、
それに取り消せる雰囲気ではなくなってたし。
お互い英語がネイティブじゃないから、意志の疎通にどうしても無理が生じます。

 

まずは前菜らしきものが運ばれてきました。
グラスにはいっているのは、温かいクリームのようなもの。
これはとても美味しく、あっという間に食べてしまいました。
これならブイヤベースにも期待が持てるというもの。

 

さて!いよいよブイヤベースが運ばれてきました。
最初の一皿は、具なしのスープのみです。
これはこのままいただくのではないのです。
いただく前に、ちょっと一手間あります。

 

カリカリに焼かれた小さなフランスパンが一緒に来ますので、
それに大蒜を生のまますりこみ、それをスープに浮かせます。
これを具として、一皿目はいただくのですが…。

えーと…私の舌のせいだとは思いますが…

これ、美味しいですか?船場汁のほうがずっといいと思うのは私だけ?
一口いただいてみて、ちょっとびっくりでした。
だって、世界3大スープだよ。過剰な期待するじゃんフランス料理美味しいし。
他の魚だしのスープを食べていないので、比較ができませんが…。

 

ようやく一皿目をあけると、二皿目が出てきます。
今度は魚介類の具がこれでもか!っとばかりに満載。
勿論私の注文したロブスターがメインとなっています。
その他の具はホウボウ、貝などですが、
もうてんこ盛り状態でどこから手をつけていいやら。
しかもこれをナイフとフォークで食べるのですから、
味以前にかなり大変な食べ物なんですね。

 

結局食べきれず(私の口には合わなかったというのもある)残してしまいました。
ウェイターさんには「too large,I'm sorry」と言って。
そうしたらどうも注文方法の説明不足と思ったのか、デザートとかチョコレートとか
コーヒーとか、サービスで色々出てきました。
あんな巨大なロブスター、よく考えなくても2kgなんて、食べられる筈ないですよね。
ギャル曽根や菅原さんあたりなら楽勝でしょうけど。
結局会計は300ユーロを超えてしまいました。
55ユーロで具の追加なしのブイヤベースが食べられるので、皆様はぜひその方法で。

 

で、味については前述したとおり、私にはあまり美味しいとは思えなかった。
後日日本語のできるフランス人の方に聞いてみたところ、
「本来のブイヤベースが食べられるお店は、今はまずない」のだそうです。
その方がお子さんの頃食したブイヤベースは、漁で大量にとることのない魚、
岩の間にいて、銛などで突いてとれる小魚で作ったそうです。
私は、売れ残った魚などで作る浜鍋みたいなものかと思っていたのですが、
そもそも市場に流通されない魚を、わざわざ捕って作ったのですね。

 

現在マルセイユには「ブイヤベース憲章」なるものがありまして、
上記のブイヤベースのリンク先にありますが、これは最近できたものでしょう。
色々と決めてあるようですが、私は日本のたらちりとか石狩鍋のほうが、
やはりよく舌になじむようです。

 

後日、アビニヨンで立ち寄ったレストランで、
どこでどう間違ったのか、具のないブイヤベースを頼んでしまいました。
パンの浮身を使うのも同じ。
値段はかなり安かったのですが、味はそれほど変わらなく感じました。

 

2:ルチキート(オーベル・シュル・ロワーズ)

 

ゴッホ終焉の地であるオーベル・シュル・ロワーズにあるレストランです。
前を通りかかっただけではレストランと気付かないような、
可愛らしい一軒家のお店。
ミシュランで星1つだそうで、期待が持てますね。
Parisgolfのカロリンさんのお勧めのお店です。

 

中には本物の暖炉があって、赤々と火が燃えていました。
その暖炉の近くの席について、フランス語のみのメニューを眺めます。
この時はカロリンさんが一緒でしたので、色々と説明してくださいました。
なんでもフランス料理の料理名というのは、独特の用語がつかわれており、
フランス人でも完全に読みこなすことは困難らしいのです。
料理のお品書きを読むための辞書まであるというのですから驚きです。

 

運ばれてくるお料理は、とても可愛らしい盛り付け。
本当に日本食とフランス料理は、見た目を重要視しますね。
お味も勿論食べて美味しいのですが、眼も楽しませてくれます。

 

デザートに私はパリ・ブレストを頼んでみました。
パリ・ブレストとは、リング状に焼いた大きなシューを横に切って
間にクリームを挟んであるものです。
さくさくして甘さも程よく、大満足でした。
人生初のパリ・ブレストをフランスで食べられたというのが、また嬉しい。
簡単なコースで、値段は1人30ユーロくらいでした。
オーベル・シュル・ロワーズに観光に行くことがあれば、ここは一押しです。

 

3:シャルティエ

 

私の宿泊していたホテルのすぐ近くにあったレストランChartier。
「シャルティエ」と読みます。
細い路地を指すように、矢印のネオンサイン。
何やら赤い照明が怪しくみえますが、ランチもやっている普通の食堂です。
時には行列もできるというお店なので、行ってみました。

 

路地を入っていくと、お店の入口はこんな感じです。
店内は明るく、わいわいがやがやと、大勢の人の雰囲気。
いっぱいなのかなあと恐る恐るドアを開けると、やはり混んでる。
でも空席はあったようで、ボーイさんが案内してくださいました。

 

中は想像以上に広く、2階席にのびるらせん階段が素敵です。
天井が高く、外国にしてはかなり明るい照明。
ざわざわとした何とも言えない雰囲気。
大衆食堂といった感じのお店で、とても気に入ってしまいました。
勿論ドレスコードもなし。地元の人たちも多いようですが、
時折フラッシュが焚かれたりするので、観光客も来ているのでしょう。
そしてこのお店、相席もあります。私もフランス人と相席でした。

 

見づらいかもしれませんが、座席の横にある網棚のようなもの。
これは荷物やコートなどを乗せるためのものです。
私の着てきたダウンのジャンパーも、大きなカバンもこの上に。
こういう棚のついたお店、結構多いです。
日本だと下に置くパターンが多いですが、この方法も合理的ですね。

 

このようなお品書きが渡されます。
前菜、メインディッシュ、デザートまで。勿論全部フランス語。
私は悩んだ挙句、エンダイブのサラダとチーズ、そしてA.O.Cワインを注文。
仕入れによってメニューが変わることもあるようで、
当日のメニューは店へ入る路地の壁に貼ってあります。

 

これがエンダイブのサラダ。
今は日本でもこういう珍しい野菜を多く見かけますが
やはり日本で売っているものとは、味が微妙に違います。
こちらのほうが、エグみが少々強いのですが、
それがかえって私は気に入りました。
そしてサラダといえども結構なボリュームでした。

 

A.O.Cの赤ワインと、ガス入りのお水です。
このワインが、とにかく美味しかったです。
私はあまり酸味のない、甘い感じのワインが好きなのですが、
これは本当に癖がなくて、飲みやすいものでした。
さすがワインの国、フランスだなあ。
普段はアルコールを口にしない私も、フランスにいる間だけは
普通に飲んでしまいそうです。
この日も気分がよくなるまで飲んで、ホテルに帰ったのでした。

 

4:FLO

 

ホテルから ぶらぶらと歩いて、メトロ3〜4駅分くらいのところ。
何か食べようか、と食堂を探していたら、眼に入ったのがここ、「FLO」です。
この時は知らなかったのですがこのお店はチェーン店で、
下記のカフェ「クプル」なども、このお店のグループです。
最近では日本にも進出してきており、すかいらーくグループのひとつ、
フロ・プレステージュ」としてフランスのお総菜や、ケーキなどを扱っています。

 

建物はほどよく古い感じで、木枠などはピカピカに磨かれていました。
店の中には、フランス人がいっぱい。
地元の人が来ているようなお店なら、地元の人が食べてる味に近いだろうと、
個人的にはかなりワクワクしていました。
またもやフランス語のお品書きと悪戦苦闘しながら、赤ワインとお魚のグリル、
そして奮発してフォアグラのステーキを注文。

 

ワインとおつまみのオリーブが運ばれてきました。
オリーブは当たり外れが大きいのですが、これは当たり。
塩味もほどよく、あっという間に食べてしまいました。
ここの赤ワインも大変飲みやすく、オリーブととても合って美味しい。

 

メインディッシュが運ばれてきました。
結構大きなお魚の横に添えられているのは、
おそらくスライスした腎臓をさっとソテーしたものでしょう。
その上に白く見えるのはグラタン。
腎臓は少し癖があるなあと思いましたが、
お魚はとても美味しくいただきました。

 

手前に見える白い楕円形のものが、フォアグラのステーキです。
本場のフォアグラはね、ほんとーに美味しいのですよ!
柔らかくてとろけていくような舌ざわりなのです。
タラの肝を煮て食べた時に似た柔らかさに、さらに
クリーミーな感じが加わったとでも言いましょうか。
お値段はやはりはりますが、一度食べてみて損はない味です。

 

5:モンパルナスのカフェ

 

フランスではあちこちにカフェがあります。
数多くのカフェの中でも有名なお店がいくつかありますが、
モンパルナスはそんなカフェが密集しています。
まずは「La Rotonde」。芸術家たちが昔多く集まったカフェです。
若い売れない画家たちにはお金があるはずもなく、
1杯のコーヒーで延々と粘らせてあげたのはその頃の店長さん。
従業員には「絶対に締め出してはならない」と言っていたそうです。
そのためここには多くの画家の卵たちが集まり、
夜通し芸術論などを闘わせていたのでした。

 

中はシックな木の作り。照明も柔らかいです。
ここで目を引くのは、お店のあちこちにモディリアニの絵が飾られていること。
勿論複製画か模写なのですが、この空間にとてもマッチしていて、
モディリアニ好きなら本当に嬉しいお店でしょう。
他のお店と違って、「あの絵の下の席を予約」なんてことも
あるのかもしれませんね。

 

これは朝に撮った写真なのですが、もう夕暮れみたいに見えますね。
とにかく落ち着いた店内なのです。
日本でも最近はいわゆるカフェというようなものが多くなりましたが、
フランスのカフェとの大きな違いは、子供がいるかどうか。
フランスのカフェは完全に大人の空間であって、
高校生や子連れのお母さん軍団が来られるような場所ではありません。

 

もうひとつ、このロトンドの名物が、天井のあちこちに書かれた、有名人のサインです
左からピカソ、イリナ・イオネスコ、キスリングですね。
勿論このサインは直筆ではなく、サインを模写して書かれたものです。
でも、これらの人々がここを訪れ、芸術について語っていたとしたら…。
それは本当に素晴らしい光景であり、このお店のなによりの功績と言えるでしょう。

 

そんなサインが印刷された紙のテーブルセンターがあります。
ここで食事をすると、下に敷いてくれます。
私はこれ欲しさに、朝モーニングメニューを食べに行きました。

 

メニューはクレープ・サクレ。
お砂糖がほんのりと甘い、とてもシンプルなクレープです。
食べ終わってからこのテーブルセンターを巻いて、
店の外に出た私がメトロの入口に入る時、
ギャルソンのおじさんがにこやかに店内から手を振ってくれました。
この紙は今回の旅行の一番のお土産かも。今は家の壁に飾ってあります。
それを見るたびに、あのおじさんの手をあげた笑顔を思い出します。

 

続いてロトンドのお向かいにある「Le Dome」。
ここも同じように芸術家たちが多く集まったカフェ&ブラッスリーです。
ここは数軒カフェをはしごして最後に入ったところなので、
もうお腹がコーヒーでたぷんたぷんいっており、
長居はせずにすぐに出てしまいました。
もっとも朝早い時間だったので、お店も手前のテラス席のみで、
奥の間に入ることができませんでした。
今度はディナーの時間にでも来て、ゆっくりと中を眺めてみたいです。

 

最後はちょっと今までのとは毛色の異なるカフェです。
FLOの系列のカフェで「Le Coupole」。
なんか、そんな名前のグループがあったような気がする。
ここはどちらかというと文化人や前衛芸術家たちが集まったカフェ。
朝早く行ったので開いているかどうか心配でしたが、大丈夫でした。

 

まずはあまりの広さにびっくり。とにかく広い。
そのため、お客さんがそれなりに入っているものの、
ぽつんぽつんといるようにしか見えませんでした。
何本もある柱にも絵が描かれていて、
壁には最近のものと思われる絵がたくさんかけてあります。

 

それから、このカフェを訪れた有名すぎる人たちの写真が飾られています。
誰だかわからない人も勿論ありましたが(写真のみで説明はありません)、
最初に私の眼に飛び込んできたのは、サルトルと並んだ寺山修司の写真でした。

 

寺山は本職は歌人ですが、その他にも数多くの評論や
舞台、映画などを残しています。
それらは日本よりもフランスで高く評価されていました。
早稲田時代にあの高慢な大橋巨泉に自信を失わせたほどの言葉の能力や、
自分の原点である青森、恐山、母への憧憬などは
フランス人にはわからないだろうと思うのですが、その芸術性への賛辞は多く、
ここにサルトルと並んで写真が飾られるほどの人物として評価されています。
寺山は生きている時にこのカフェに足を運んだのでしょう。
この広い空間で、何を感じ、何を見つめ、何を話したのでしょうか。
早すぎる死を迎えた彼の遺影のような写真を見ながら、彼の歌を一句呟いてみました。

ほどかれて少女の髪にむすばれし葬儀の花の花ことばかな

 

カフェオレと一緒に頼んだクグロフ(これがまた美味しい)を食べながら、
私は来るたびに違う表情を見せてくれるパリのことを考え、そして
私の故郷である東京、寺山の故郷である青森について考えていました。
結局人の魂の戻る場所というのはその人の原点なのであって、
私がいくら海外旅行が好きであっても、私の中の東京は消えることはありません。
私がどこかに引っ越したとしても、私は骨の髄まで東京に浸っているのです。
それは子供時代バラックが建ち並ぶ貧しい時代の東京から現在の東京にまで、
長いような短いような私の歴史とともにあります。
パリは東京に比べれば、変化が少ない街でしょうから、
パリっ子たちなどは、そういう思いがなお強いのではないでしょうか。

 

メトロのモンパルナスの駅の通路には、
この周辺の有名なカフェの、昔の写真が飾ってあります。
たかがカフェですが、これらのカフェはいわば老舗であり、
パリの歴史の生き証人のようなものです。
この日、私はフランスを出て、東京へ戻りました。
自分の故郷での毎日が、再び静かに始まりました。


村境の春や錆びたる捨て車輪ふるさとまとめて花いちもんめ

 

2009年フランス旅行記・南仏 1:マルセイユ
2:エクス・アン・プロヴァンス
3:アヴィニヨン
4:シュヴァルの理想宮
ゴッホの足跡を訪ねて 1:アルル
2:サン・レミ
3:オーベル・シュル・ロワーズ
フランス雑記 1:ルーアン
2:パリ・ぶらぶら散歩
3:フランスグルメ

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