【2006年5月7日(日)〜5月8日(月)】

立山黒部アルペンルート〜黒部の大自然、それと闘った人間の偉業を感じに〜

狭いようで広い日本、数々の観光列車がありますが、
立山黒部アルペンルート」ほど知名度のある観光の交通もないと思います。
夏から秋にかけての観光客の数は半端ではなく、パックツアーも多く組まれています。
ピークシーズンは、やはり雪が融ける夏から紅葉の秋にかけて。
GWはまだすいているほうだ、という情報があったので、
死ぬまでに一度は訪れたい場所の1つにここをあげていた湯でたこは、
富山の温泉めぐりを兼ねて、思い切って出かけてまいりました。

 

立山駅〜美女平(ケーブルカー)

 

黒部駅へ到着。駅の横には、黒部の湧き水があり、柄杓で自由に飲めます。
ここで空のペットボトルに水を入れさせていただきました。
通常は車に主な荷物を置き、簡単な手荷物だけで行動するのですが、
途中で一泊するため、そのための荷物は手で持たなければなりません。
忘れ物がないかどうか、入念にチェックしてから駅へ。

 

駅近くの傾斜を、ケーブルカーが登っていくのが見えます。
あんな感じで登るのかあ。斜めだなあ。

窓口で黒部湖までの往復切符を購入。
往復割引はありませんが、いちいち切符を買うのが面倒なら
やはりこちらがおすすめです。往復するのならね。

 

ホームに入ると、ホーム自体が斜めです。平地がない。全部階段。
上に見えるのが客車で、後に連結されているのは荷物用の貨車です。
今でも修繕のための建築資材などを運搬するのに、この貨車は現役。
私が乗ったケーブルでは空でした。
ちょっと怖いけど、むき出しの貨車に乗ってみたい気もする。

 

←客車の中も、思い切り斜めってます。
こんな斜めの乗り物、乗ったの初めて。
当然ながら、登る山の角度もこのくらいあるわけで、
立山という山のすごさを思い知らされます。
だって、裾野でこんな角度なんですよ!これから先は、どんな角度やら。
右は、近づいてくる美女平の駅を見上げて写したものです。
いかにすごい角度かが、お分かりかと思います。

 

美女平〜室堂(高原バス)

 

美女平は、まだ冬でした。周囲は雪景色。真っ白です。
常緑樹の深い緑だけが点々と見える、そんな冬の景色でした。
夏や秋になれば、このあたりも散策が楽しめたりするのですが、
この時期では歩き回れる範囲もそれほど広くはありません。

美女平から室堂へは、高原バスを使います。
この区間はアルペンルートの中では一番長く、50分かかります。

 

雪のない季節ならば、かなりの景観が臨めるのでしょうが、
まだまだ雪が深い立山の5月、室堂が近づくにつれて、
周囲に見えるのは雪の壁だけになっていきます。
室堂駅近くの「雪の大谷」のすごさは有名ですが、
この高原バスのルート途中に見られる壁も、たいした高さです。

 

どのくらいの高さかというと、この写真でおわかりでしょうか。
バスの高さは3mあります。それよりも、かなり高い。
この場所の雪の壁は、平均的な高さです。
室堂が近づくのと比例して、どんどん高くなります。

時速50KMくらいの速度で延々と数十分走り続けるこの距離を、
どうやって除雪したのでしょうか。気が遠くなるような作業です。

 

室堂〜大観峰(トロリーバス)

 

トロリーバスとは、電力で動くバスのこと。
トンネルの中を走るのに、ガソリンだと排気ガスの問題があるため、
アルペンルートでは今でもトロリーバスが現役で走っています。
室堂から大観峰までの間は、全てがトンネル。
なので見所などないように思えますが、乗っていて大変楽しかった。

 

電車のように、架線もあります。
上の写真だと連結されているように見えますが、
一台一台のバスは、完全に独立しています。

 

バスの外観を撮っていて気づいたのですが、
「立山黒部観光」ではなく「貫光」なのですね。
確かにアルペンルートはトンネルなしでは不可能なことでした。
この工事は、トンネル掘削に命運がかけられたと言っても過言ではない。
漢字が表意文字であることを、しみじみと感じ入ります。

 

トンネルは途中にすれ違える場所が設置されているだけで、
殆どバス幅ぎりぎりという大きさのものなのですが、
そこをトロリーバスは、とんでもないスピードで走ります。
とにかく速い!一番後ろの席から、流れ去っていくトンネルを写したもの。
少しでもスピード感が伝わるかなあ。とにかく速度に興奮した数分間でした。

 

大観峰〜黒部平(ロープウェー)

 

大観峰という名の通り、ここからの眺望は本当に素晴らしい。
ロープウェーのホームからの撮影などは、混雑時は禁止されますが、
ちゃんと展望台もあるので、ご心配なく。
この駅では、とにかく燕が多かったのが印象的。
他の駅では全く見かけなかったのに、ひゅんひゅん飛び交っていました。

 


展望台から見下ろす、立山の景観。
自分が雲の上に居る、というのが、実感できます。

 

アルペンルートの乗り物は、どれもこれも楽しいですが、
眺めを楽しむというのだったら、このロープウェーがダントツでしょう。
大観峰から黒部平までの間には、景観保護のため、支柱は皆無。
ひたすら周囲に広がる景色のみを、邪魔なく見ることができます。
5月はまだまだ雪深いので、一面に広がる銀世界はまぶしいほどの美しさ。
下を見下ろしていると、スキーの跡がいくつか目に入りました。
スキーの腕に相当自信のある人は、ここに来て山スキーを楽しむのだそうですが、
とんでもない角度で、なおかつ立ち木などの障害物もそれなりに多く、
かなりのレベルでないと、難しいでしょう。

たった7分間なのですが、その間に見える景色は本当に見事です。
途中、一時停止して欲しいと思ったくらい。
高い場所が苦手な人はつらいだろうなあと思えるくらいの高みから、
ため息が漏れるほどの景観を楽しむことが出来ました。

 

黒部平〜黒部湖(ケーブルカー)

 

いよいよ黒部湖への最後の交通。またもや、ケーブルカーです。
最初のケーブルカーは、かなりの斜面を登りましたが、今度のケーブルはどのくらい?

 

ホームにおりると、やっぱりこんな角度でした。
傾斜が急な場所だからこそのケーブルカーですが、
ここのは角度がすごすぎます。
登りよりも下りのホームのほうが怖い。
トンネルに吸い込まれていきそうに思えます。

 

内部はやはり斜め。運転席の後に陣取って、下っていく様を撮影。
あまりに斜めで、しかも今回はトンネルなので、
間違ってこのまま、下へ転げてしまうのでは、と思えるくらい。
結構どきどきしながら、黒部湖駅へ到着。
さあ、もう黒部ダムは目の前です。

 

黒部ダム

 


長野側から来ると見える
黒部ダムと書かれた石碑
♪かぜのなかの、す〜ばるう〜♪
と、頭の中に「地上の星」が自然に流れ出すほど、
「プロジェクトX」での黒部ダムの回は、大きく心に響きました。
今、自分がその場所に居る。他のツアーの大勢の人々も、この場所に居る。
ケーブルカーなどを乗り継いで何の苦労もなく、この山奥に居るのです。
本来だったら、こんな山奥には来られないはずなのに。
なんだかとても、不思議な気持ちでした。

 

旅行のパンフレットなどでは、緑色が鮮やかな湖面で御馴染みの黒部湖ですが、
この時期は、まだ表面は氷で覆われています。
真冬には、表面は全部凍ってしまうのでしょうか。
一部溶けてきているとはいえ、まだまだ厚い氷の層に、立山の冬の厳しさを感じました。
当然ながらこの時期、遊覧船は運休中です。

 

ダムからの眺めは本当に素晴らしく、思わず息を呑むほどです。
空も地上で見るよりも青く、空気も清涼で澄んでいます。
荒々しい岩肌をむき出しにした山々は巨大で、
圧倒的な存在感を持って、我々の眼に迫ってきます。
しかし、それ以上に圧倒的なものは・・・

 

やはり黒部ダムの存在でしょう。
展望台から見下ろす黒部ダムは、その巨大さのみならず、
様々な要因から、我々を惹きつけてやみません。
ダムからの放水は、この時期はありませんが、
見ているだけで圧倒される程のスケールの大きさと精巧さだけでも、
十分に来た価値があると感じました。

展望台ではエンドレスで「地上の星」が流れていました。
お約束だなあ、と思いながらも、番組を思い出してしまい、
目の前の光景が涙で歪んでくるのを、禁じえませんでした。

 

今年は雪が深く、通常だったら立ち入れるはずの場所でも、
立ち入り禁止が結構ありました。
殉職者慰霊碑も、立ち入り禁止のロープの後ろでした。
売店からの展望台も、雪のため上がれず、駅構内からのアプローチ。
トンネルの壁には、ダムが完成されていく様子が展示されており、
駅にはダムのジオラマがありました。

 

ダムの放水を見ることの出来る展望台へは、
200段ほどの階段を上らなければいけません。
高地で、空気が薄めなので、たかが200段でも結構疲れます。
途中で休憩しながら、ゆっくりとあがるといいでしょう。

 

交通機関の窓から、展望台から、ダムから見た、雄大な山々。
それらは、眺めるだけなら美しいですみますが、
山へ挑む人々には、恐ろしい大自然の牙をむいて襲い掛かってきたのです。
勿論、国策の電力確保という目的を持って、仕事で入山した人々にも。
「プロジェクトX」や「黒部の太陽」「高熱隧道」などで、その難工事ぶりは知られていますが、
実際に現地に来てみると、いかに工事が困難だったかを、思い知らされます。

 

今回、アルペンルートで黒部ダムまで来てみて、人間の力の凄さというのを、痛感しました。
ダム工事は季節関係なく、全く休みなしで行われたそうです。まさしく突貫工事です。
宇奈月の町では、犠牲者が出るたびに、冬の黒部へ入ることの無謀さが囁かれたとのことです。
今から半世紀近くも前、土木技術も今よりは確実に劣っている時代。
その時代に、なぜこのような、こんな奇跡のような工事が可能だったのか。

むしろ、今の時代では不可能な工事だったのでしょう。あの時代だからこそ、出来たのです。
不可能を可能にしたもの。それは国策というバックアップも重要な要素のひとつですが、
何よりも大きかったのは、現場の人間の情熱ではなかったでしょうか。
仕事に懸ける情熱。ダムの完成に向かって、やみくもに突き進み、他のことは一切省みない。
そんな情熱を、このダムからは感じるのです。
その燃えるような情熱は、ダムが完成した時点で燃え尽きたものではなかった。
今でもなお、ダムを見つめる私達の心に、その情熱の炎は燃え移ってくるのです。
それは永遠に消えることなく、毎年黒部ダムを訪れる数万人の心の中で、
延々と燃え続けていくに違いありません。感動という、副産物を残して。

それと同時に、この工事に払われた多大な犠牲についての思いも、頭をよぎります。
関連工事まで含めれば、数百名の殉職者。彼らは工事の完成を見ることなく、死んでいきました。
今は交通機関を乗り継ぐだけでここまで来れますが、その軌道には彼らの魂があるのです。
私達はスイッチを押すだけで電気がついたり、冷暖房のある快適な生活を送っていますが、
その裏にある先人達の苦労や犠牲について、ここ黒部ダムは、考えざるをえない場所でもあります。
展望台からダムを見下ろしながら、心の中で何度も「本当にありがとう」とつぶやきました。
それ以外の言葉が、思いつかなかったのです。本当に、本当にありがとうと言いたい。何度でも。

私にとって立山黒部アルペンルートは、大自然のパノラマを堪能するだけのものではなく、
先人達の熱い思いと偉大さを、心に深く刻みつける旅でありました。
今でも部屋の電気をつけるたびに、この日のことを思い出します。

 

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